最高裁判所大法廷 昭和23年(れ)447号 判決 1948年12月01日
主文
本件上告を棄却する。
理由
辯護人高垣憲臣上告趣意第一點について。
被告人鄭在鶴の勾留關係は、大體において所論のとおりである。記録によれば、昭和二二年七月一一日附東京地方檢察廳檢事正宛澁谷警察署長の「被疑事件送致書追送」の犯罪情状の箇所に、被告人に對しては「進駐軍品川軍事裁判所よりの勾留状発布せられ居るものなり」との記載がある。しかし、この進駐軍關係の勾留と本件の勾留との關係は、記録上は明確でない。ただ、記録に存する資料だけによって判斷すれば、被告人の勾留場所の變更、勾留更新決定の送達遲延等については、所論のとおり刑事訴訟法の定めている手續が履踐されていないような節がある。しかしながら、かかる點に違法が存するとしても、その是正のためにする不服の道は他にあるのであって、これをもって上告申立の理由とすることはできない。なぜならば、かかる違法は、法定の絶對的上告理由に該當しないし、判決に影響を及ぼさざること明白だからである。論旨は、それ故に採るを得ない。
同第二點について。
所論公判調書には、判事、檢事及び裁判所書記が列席して公判を開廷した旨記載されており、又判事と檢事とが同列に記載されておることは、所論のとおりである。憲法においても裁判所法においても、裁判所を構成する者は裁判官に限ることは言うを待たぬところであるが、公判の審理は裁判官だけでできるものではなく、又することを許されていない。檢事も裁判所書記も列席することを要する。かく同じく列席しても判事と檢事と裁判所書記は、それぞれ法律で定められた各自の職務を遂行するためのものであることは明白であって、調書に檢事が裁判官と平列ないし同列に記載されてあっても、それだけのことで裁判に關興し裁判所を構成するものであると言うことはできない。論旨は、理由なきものである。
よって、刑事訴訟法第四四六條に從い主文のとおり判決する。
この判決は、裁判官全員の一致した意見である。
(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上登 裁判官 栗山茂 裁判官 真野毅 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介)